職務質問と公務執行妨害罪

2019-07-21

職務質問と公務執行妨害罪

埼玉県加須市に住むAさんは,埼玉県加須警察署の警察官(最終的な人数5名)から職務質問を受けた際,警察官の言動に立腹し,脚元にあった石をパトカーに投げつけ,パトカーのフロントガラスにひびを入れました。
そこでAさんは,公務執行妨害罪で現行犯逮捕されました。
Aさんは,パトカーを壊しただけなのに,なぜ逮捕されなければならないのか納得がいってないようです。
(フィクションです)

~ 公務執行妨害罪 ~

公務執行妨害罪は刑法95条1項に規定されています。

刑法95条1項
公務員が職務を執行するにあたり,これに対して暴行・脅迫を加えた者は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

Aさんが納得していないのは,
1 石を直接,警察官にぶつけたわけではないのに公務執行妨害罪の「暴行」と言えるのか
2 石をパトカーに投げつけただけで,実際に,公務員の職務を「妨害」してないではないか
という点だと思います。
以下,1,2につきご説明します。

= 上記1(公務執行妨害罪の「暴行」とは) =
刑法の規定の中には「暴行」という言葉がよくつかわれますが,その意味は各罪名によって異なりますから注意が必要です。
刑法の「暴行」は次の4種類に分けられます。

① 最広義の暴行(例:騒乱罪(刑法106条))
有形力の行使すべてを含み,対象は人であっても物であってもよいとされています。
② 広義の暴行(例:強要罪(刑法223条))
人に対する有形力の行使をいいますが,直接暴行だけではなく,間接暴行も含むとされてます。
③ 狭義の暴行(例:暴行罪(刑法208条))
人の身体に対する有形力の行使をいいます。
④ 最狭義の暴行(例:強盗罪(刑法236条),事後強盗罪(238条),強制性交等罪(177条),強制わいせつ罪(刑法176条))
人の身体に対する有形力の行使で,人の反抗を抑圧するか,著しく困難にする程度のものとされています。

このうち,公務執行妨害罪の「暴行」は上記②に当たります。
直接暴行とは,人の身体に直接に有形力を加えることですが,間接暴行とは,物に対する有形力で,それにより間接的に一定の人に物理的・心理的に感応を与えるようなものを意味します。
すなわち,後者の場合,直接人の身体に暴行を加える必要はありません。
Aさんの「パトカーに石を投げつけ,フロントガラスにひびを入れた」という行為もこの間接暴行に当たりそうです。

= 上記2(公務執行妨害罪の「妨害」とは) =
上の暴行の程度ですが,当然,職務執行の妨害となる程度のものである必要がありますが,それによって現実に職務の執行が妨害されたことを必要とされません。これは,公務執行妨害罪の目的が公務の円滑な執行を保護するためにあるからです。
過去には,警備中の警察官に対する1回だけの命中しなかった投石行為につき公務執行妨害罪の成立を認めた判例(最判昭33年9月30日)があります。
Aさんの周囲には警察官が5名おり,しかも,パトカーに損害を加えただけで,実際に職務に当たる警察官には危害を加えていないから公務を「妨害」したというには違和感を感じます。
しかし,それでも公務執行妨害罪が成立するおそれがありますから注意が必要です。

~ 職務質問と公務執行妨害罪 ~

警察官職務質問執行法(以下,警職法)2条1項では「警察官は,異常な挙動その他の周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について,若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる」と規定されています。
この規定に基づいて行う質問を職務質問といいます。
当然ながら、上に書かれたある要件を満たした場合のみ適法とされます。
公務執行妨害罪が成立するには、「公務員(警察官)の職務が適法であること」も要件で、職務質問が違法な場合には、たとえ公務員に暴行を加えたとしても公務執行妨害罪は成立しません。
いかなる場合に違法な職務質問となるかについては弁護士へご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,公務執行妨害罪等の刑事事件少年事件専門の法律事務所です。
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