DV、児童虐待の被害で悩むあなたへ
DV、児童虐待の被害で悩むあなたへ
東京都千代田区に住むAさんは、夫Bが娘Vちゃん(10歳)に日常的な児童虐待を目の当たりにしながら、それを傍観する毎日を送っていました。
実は、Aさん自身も、夫Bから日常的な暴力を受けるDVの被害に遭っていたため、夫Bの行為を止めることができなかったのです。
ところが、ある日、夫BがVちゃんへ暴力を振るったことによりVちゃんを死亡させた傷害致死罪で警視庁万世橋警察署の警察官に逮捕されたところ、Aさんも傷害罪の幇助犯で逮捕されてしまいました。
(千葉県野田市での事例を基に作成したフィクションです。)
~ はじめに ~
「お父さんにぼうりょくを受けています。夜中に起こされたり起きているときにけられたりたたかれたりしています。せんせいどうにかできませんか。」
これは、先日より報道されていた千葉県野田市の児童虐待事件で亡くなられた女児が書いた文章です。
小学4年生の子供がここまでSOSを発信しているのに助けることができなかったのかと心が痛みます。
先日、5月16日、千葉地方裁判所では、亡くなった女児の母親の初公判が開かれました。
母親は傷害罪の幇助犯の罪に問われています。
裁判所には多くの傍聴希望者が詰めかけたとのことで、社会的関心の高さがうかがえます。
また、同じ子を持つご家族、お母さんなどにとっても注目すべき裁判だったのではないでしょうか?
今回は、そうした方々のためにも、なぜ、自らもDVの被害に遭っていたのに夫の児童虐待を傍観していた母親が罪に問われたのか、について考えてみたいと思います。
~ 何もしなくても罪に問われることがある ~
法律上は、「何かした」ことに対して罪を与えることが基本です。
例えば、殺人罪でいえば、包丁で人の胸を刺す、ロープでクビを絞めるなどの行為です。
ところが、殺人は、「何もしない」ということでも実現可能です。
児童虐待の例でいえば、親が重病にかかっている子供を病院に連れていかない、衰弱している子どもに食事を与えない(必要な保護をしない)などです。
この「何もしない」ことを法律上は「不作為」と呼んでいます。
~ 幇助犯とは実際の犯行を容易にすること ~
では、幇助犯とは何かというと、「実際の犯行(今回の例でいえば、夫BのVちゃんに対する暴行(児童虐待))を容易にすること」をいいます。
大きな括りでいうと幇助犯も「共犯」なのですが、一般的にイメージされる「共同正犯」「共謀共同正犯」とは性質を異にします。
~ 不作為の幇助犯が成立するための要件 ~
ところが、あらゆる不作為を処罰できるとすると、Vちゃんを保護できなかった(あるいはしなかった)おじいちゃん、おばあちゃん、はたまた児童の職員まで処罰されうることになります。そこで、実務では、
① 行為者が保証人的地位にあること(→母親であれば通常認められるでしょう)
② 保証人(母親)か゛一定の犯罪阻止行為に出ることか゛可能・容易て゛あること
③ 保証人(母親)の不作為によって正犯の犯罪実行を容易にしたといえること(→報道によれば、母親は、DV被害をかわす代わりに、児童虐待を黙認していたとのことです)
という要件を設けて不作為犯の適用が無限に広がることを制御しています。
~ DV被害を受けていても…?? ~
裁判例の中には、仮に、DV被害を受けていても、「母親は体を張って子供への暴行を阻止する方法のほかにも、夫が子供に暴行を加えないように監視したり、夫の暴行を言葉で制止したりするなどして、夫の暴行を阻止することは可能であった」として不作為による幇助犯を認めている事例もあります(札幌高裁平成12年3月16日)。
しかし、これはずいぶん前の裁判例で参考になるかは疑問です。
また、仮に、「母親へのDVが余りにも酷く母親が完全に意思を抑圧されていた、あるいは母親が物理的に監禁されていたなどの極限的な状況だった場合」には、上記②の要件を満たさず、不作為の幇助犯は成立しないでしょう。
~ おわりに ~
今回の裁判ではどう判示されるか注目すべきです。
もし、この記事をお読みになり、同様のことでお悩みの場合は、厚生労働省が児童虐待でお悩みの方のための専門のダイヤルを設けていますからそちらに相談されてみてはいかがでしょうか?(児童相談所全国共通ダイヤル:189)
また、DV被害でお悩みの場合の相談窓口は「内閣府男女共同参画局 DV相談ナビ:0570-0-55210」となっていますので、ご参考ください。
さらに、Aさんと同様、被害者ではなく、
・刑事事件に発展しそうだ
・被疑者として捜査を受けそうだ
・逮捕されるか不安
などという方は、ぜひ、弊所の弁護士までご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。
刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。
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