傷害罪で正当防衛を主張

2019-12-03

傷害罪で正当防衛を主張

傷害罪正当防衛を主張するケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

Aさんは、Aさんが所有する東京都中央区の宅地に立ち入り「立入禁止」と記載された看板を設置しにやってきたVさんに対して、Vさんの胸を両手で突き転倒させ、頭部打撲のケガを負わせたとして、警視庁月島警察署の警察官により傷害罪の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんの家族から依頼を受けた刑事事件に強い弁護士がAさんに初回接見したところ、Aさんは、「Vさんの胸を突きけがをさせてしまったことは間違いないが、これは私が所有する宅地の権利を守るためにやったのだ」と話していました。
そこで、刑事事件に強い弁護士は、正当防衛による無罪主張を検討しています。
(フィクションです。)

~ 傷害罪 ~

傷害罪は刑法204条に規定されています。

刑法204条(傷害罪)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 

これが傷害罪の規定ですが、暴行罪(刑法208条)の規定をみると傷害罪がどんな罪かより明らかとなります。

刑法208条(暴行罪)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

つまり、人に暴行を加え、よって、人の身体を傷害させた場合傷害罪が成立します。

ここで「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいい、殴る、蹴る、突く、押す、投げ飛ばすなどがその典型といえるでしょう。
「傷害」とは、人の生理的機能の障害をいい、例えば切傷や打撲、火傷などのほか、失神や抑うつ症、睡眠障害などもこれに含まれます。
そして、暴行行為、又は傷害行為と傷害との間に因果関係があることが必要です。
この因果関係の考え方についても諸説ありますが、基本的には「その行為がなかったならばその結果は発生しなかった」という関係が認められれば因果関係を認められるとされています。

なお、傷害罪は、相手を怪我させようとする意図で怪我させた場合はもちろん、相手を怪我させるつもりはなくても結果的に怪我させた場合でも成立することに注意が必要です。

~ 正当防衛 ~

ある行為が犯罪に当たる行為であっても、それが正当防衛の要件を満たす行為であればその行為の違法性はなく犯罪は成立しません。
正当防衛は刑法36条1項に規定されています。

刑法36条1項
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

これからすると、正当防衛は、「急迫性」、「不正の侵害」、「自己又は他人の権利」、「防衛するため」、「やむを得ずにした」という要件が必要であることが分かります。

事例では、Aさんの土地に立ち入るという「急迫不正の侵害」行為をしたVさんに対して、Aさんが自己の土地という「自己の権利」を「防衛するため」に、Vさんの胸を両手で突き倒した行為が「やむを得ずにした」行為がどうかが問題となります。
この点、「やむを得ずにした行為」とは、権利を防衛するための手段として必要最小限度のものであることを意味します。
ここで重要なのは、「手段」として必要最小限度であればよいということであり、「結果」が必要最小限度であることまで要求されていないということです。

上の事案の基となった裁判例においては、被告人と被害者の間には体格差等があることや、被害者が後退して転倒したのは被告人の力のみによるものとは認め難いこと等の事情を踏まえて、「暴行の程度は軽微であったというべき」としたうえで、「そうすると、本件暴行は、被告人らの主として財産的権利を防衛するために被害者の身体の安全を侵害したものであることを考慮しても、いまだ被害者らによる上記侵害に対する防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできない。」として、「本件暴行については、刑法36条1項の正当防衛が成立して違法性が阻却される」と判断されました。
これからすると、Aさんの行為についても、正当防衛の成立が認められる余地はあると考えられます。
正当防衛が成立すると犯罪は不成立となるため刑罰が科されることはありません。

このような正当防衛の成否については、なかなか自分だけで考えづらい部分がありますから、弁護士に相談することが望ましいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件少年事件専門の法律事務所です。
傷害事件正当防衛の成否についてお悩みの方は、お気軽に弊所弁護士までご相談ください。