犯行を中止して減刑?【中止犯】

2020-01-22

犯行を中止して減刑?【中止犯】

殺人未遂事件を起こしたが、途中で犯行を止めた場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~ケース~

神奈川県川崎市に住むAさん(75歳)は、妻のBさん(80歳)の認知症が進行してしまったため、5年ほど前からBさんの介護を続けていたが、先の見えないBさんの介護に限界を感じていた。
ある日、Aさんは、これ以上Bさんの介護を続けられないと感じ、Bさんを殺害することを決意した。
そこで、Aさんは、就寝中であったBさんに対し、殺意をもって、その左胸部を包丁で突き刺した。
しかし、Bさんが激しく苦痛を訴えるのを見たAさんは、自らの行為を後悔し、Bさんを助けようと思い、救急車を呼んでBさんを病院に搬送させた。
病院での医師らの救命措置により、Bさんは一命をとりとめることが出来た。
その後、Aさんは、殺人未遂の被疑事実で神奈川県麻布警察署の警察官により逮捕された。
(上記の事例はフィクションです)

~中止犯とは~

殺意をもってBさんの左胸部を包丁で突き刺して殺そうとしてしまったAさん。
まずは殺人未遂罪が成立することになるでしょう。
その上で、途中で後悔して救急車を呼んでいることから、「中止犯」というものが成立し、刑が軽くならないかが問題となります。

条文を見てみましょう。

(未遂減免)
刑法第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

この条文をまとめると、犯罪が未遂に終わった場合には、刑罰を軽くすることができる(軽くしなくてもいい)が、偶然にも未遂に終わったのではなく、自ら犯罪を途中でやめて未遂になった場合には、中止として必ず軽くしなければならない旨が規定されていることになります。

したがって中止犯が成立するためには、

①犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者であること
②自己の意思により
③犯罪を中止したこと

が必要となります。

まず今回の事例では、Aさんは殺害をしようとしましたが、Bさんが一命をとりとめ、殺人まではとげていません。
したがって、Aさんは①「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者」にあたるといえます。

~自己の意思で?~

次に、②「自己の意思により」といえるためには、外部的な事情により犯行を中止せざるを得なくなったのではなく、やろうと思えばできたが、やらなかったと言える必要があります。

今回の事例では、AさんはBさんが激しく苦痛を訴えるのを見て、殺人をしようとしたことを後悔して救急車を呼ぶなどの行為をしています。
このように刺された人が激しく苦痛を訴えるのは通常のことですので、それだけで殺害を中止させるような外部的事情とはいえないとされることが多いです。

つまりAさんは、Bさんを殺そうと思えば殺すことが可能であったといえますが、救急車を呼んだことになります。
したがって、②「自己の意思により」という要件を満たすといえるでしょう。

~犯罪を中止した?~

次に、③「犯罪を中止したとき」といえるためには、(ア)自己の行為を中止すれば結果が発生しないと言える場合には行為の中止だけで足りますが、(イ)自己の行為によってすでに結果が発生しつつある場合には真摯な結果回避のための措置を講じることが必要となると考えられています。

(ア)の場合とは、ピストルで相手を殺そうとしたが弾丸が命中しなかったときに、まだ弾があるにもかかわらず殺害を中止するような場合のことをいい、この場合には単に殺害行為を止めれば足りると考えられています。

他方、(イ)の場合とは、今回の事例のように、すでに包丁で突き刺すという自らの行為によって被害者の死亡結果が発生しようとしているような場合を指します。
ここでの真摯な結果回避のための措置とは、単にそれ以上に包丁で突き刺す行為を止めるだけでは足りず、犯罪結果(死亡結果)の発生を防ぐための積極的な行為が必要となります。

今回の事例では、Aさんは、救急車を呼び医師らに救命措置を講じさせていることから、真摯な結果回避のための措置を講じたと評価でき、「犯罪を中止したとき」にあたる可能性が十分にあります。

このように、犯罪成立後の救命行為などにより①②③の要件を満たして中止犯が成立し、刑罰減刑されたり免除されたりする場合もあります。

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