福岡県直方市の落書き事件

2019-05-22

福岡県直方市の落書き事件

~ケース~
福岡県直方市在住のAさんは市民団体に所属しており,熱心な活動家であった。
ある年,福岡県直方市の市長選に所属する市民団体と政治思想を相いれないXが当選した。
AさんはXが市長となったことに抗議するために福岡県直方市内のX氏の後援会事務所の外壁にスプレーで抗議の声明を大書した。
その後,防犯カメラや目撃者の証言などによりAさんは福岡県直方警察署建造物損壊罪の疑いで逮捕された。
(フィクションです)

~落書き~

今回のケースでAさんは建造物損壊罪で逮捕されています。
建造物損壊罪は刑法260条で次のように規定されています。

刑法260条
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

ここで,軽犯罪法1条33号の次のような規定も確認しておきましょう。

軽犯罪法1条33号
みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者

他人の建造物へ落書きする行為は軽犯罪法1条33号の「汚した者」に該当するといえますので,落書き行為は軽犯罪法違反となると考えられます。

ところで,今回のケースではAさんは建造物損壊罪の疑いで逮捕されています。
外壁などに落書きをすることは建造物損壊罪のいう「損壊」に当たるのでしょうか。
損壊とは客体の用法に従って使用することを事実上不可能にする行為をいいます。
物理的に破壊し,またはその形態を変更することは必ずしも必要ではなく,本来の目的に使用することができない状態にする行為も含まれます。

裁判所(東京地判平成16・2・12)は刑法260条の「損壊」について以下のように述べています。

建造物の本来の効用を滅却あるいは減損させる一切の行為をいい,物理的に建造物の全部又は一部を毀損する場合だけではなく,その外観ないし美観を著しく汚損することによっても,建造物の効用を実質的に滅却ないし減損させたと認められる場合があり,このような場合には,たとえその建造物の本質的機能を害するには至らなくても,その行為は「損壊に」当たるとするのが相当である。
軽犯罪法1条33号との関係では,建造物の外観ないし美観を汚損する行為が建造物損壊罪所定の損壊にまで当たるといえるか否かについては,建造物の性質,用途ないし機能との関連において,汚損行為の態様,程度,原状回復の難易度等,諸般の事情を総合考慮して,社会通念に照らし,その汚損によってその建造物の効用が滅却ないし減損するに至ったか否かを基準として判断すべきである。

裁判となった事件は,区立公園の公衆便所の外壁にラッカースプレーで外壁をほとんど埋め尽くすような形で「反戦」「戦争反対」などと書いたものです。
この事件では落書きを洗剤やシンナーなどで消去することが出来ず,壁面の再塗装でしか消去できず,再塗装には7万円の費用がかかるということで,建造物損壊罪のいう「損壊」であると認定されました。

~Aさんの場合~

Aさんの行為が建造物損壊罪となるかどうかはAさんが行った行為が上記の「損壊」の要件に当たるかどうかによります。
たとえば,水で簡単に消せるというような場合には原状回復が容易ですので軽犯罪法違反にとどまるといえます。
しかし,裁判になった事件のように,シンナーなどを使っても消すことが出来ず,再塗装が必要であるような場合には建造物損壊罪が成立してしまうでしょう。

建造物損壊罪の法定刑は5年以下の懲役刑のみですので,起訴されてしまった場合には刑事裁判が開かれることになります。
しかし,建造物損壊罪は危険が生じるような物理的な損壊の場合や今回のケースのような損壊というように事案によって犯行態様が異なります。
今回のケースのような落書きが損壊とされた場合,損壊の認定は原状回復の困難さ等が要件となっています。
そのため,再塗装の費用などを被害弁償として被害者の方に支払うことで検察官が事件を不起訴とする可能性もあります。
被害弁償などをして不起訴を目指す場合または建造物損壊罪となるか軽犯罪法違反となるかを争うような場合には刑事事件の弁護経験が豊富な弁護士に依頼するのをお勧めします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所刑事事件専門の法律事務所です。
建造物に落書きをしてしまい逮捕されてしまった方,警察に呼ばれお困りの方は0120-631-881までお気軽にご相談ください。
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福岡県直方警察署までの初回接見費用:41,400円)