泥酔者を介法せずに保護責任者遺棄致死罪

2019-08-30

泥酔者を介法せずに保護責任者遺棄致死罪

Aさんは、さいたま市浦和区で開催された、自己の所属する大学のサークルの飲み会に交際相手であるVさんと参加しました。
Vさんはかなりの酒好きで、Aさんは、飲み会に参加する前、Vさんから「酔いつぶれたら家まで送り届けて。」などと頼まれ、これを承諾していました。
ところが、Aさんは飲み会にすっかり夢中になり、Vさんに家まで送り届けるのを頼まれていたことを忘れ、Vさんを飲み会の席に置き去りにしたまま、他の友人らと二次会に参加しました。
そうしたところ、Vさんは誰の介抱も受けることなく急性アルコール中毒により死亡してしまいました。
埼玉県浦和警察署の捜査の結果、AさんがVさんから事前に介抱を頼まれていたことが判明し、Aさんは保護責任者遺棄致死罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~保護責任者遺棄罪、同致死傷罪~

飲み会時に必要となるのが「酔いつぶれた人の介抱」です。
実は、そのような泥酔者を放置してしまった場合、保護責任者遺棄罪という罪に問われる可能性があります。
また、泥酔者が傷害を負ったり死亡したりすれば、保護責任者遺棄致死傷罪が成立する可能性があります。

保護責任者遺棄罪は刑法218条に、同致死傷罪は刑法219条に規定されています。

刑法218条
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

刑法219条
前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害罪の罪と比較して、重い刑により処する。

=老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者=
このうち「泥酔者」がどれに当たるかですが、過去には「泥酔者」は「病者」に当たると判示した裁判例があります(大阪高等裁判所昭和30年11月1日判決)。

「保護責任」の発生根拠は、法令、契約、事務管理、慣習、条理、先行行為等、様々ですが、概ね、病者の生命・身体の危険を支配しうる地位にある者ということができると思います。
この点、Aさんは、Vさんの交際相手であって、かつ、Vさんから飲み会の前に介抱を頼まれていたことから「保護する責任のある者」に当たる可能性は高いと考えられます。

=遺棄、生存に必要な保護をしない=
「遺棄」とは、泥酔者を場所的に移動させるだけではなく、放置したまま立ち去ることも含みます。
ただし、本罪は故意犯ですから、Aさんが、Vさんが泥酔状態であることを認識しつつ、これを放置すればVさんの生命・身体に危険が生じることが分かっていながら敢えて放置した、という場合にはじめて「遺棄」したといえるでしょう。
「生存に必要な保護をしない」とは「遺棄」と異なり、要保護者(Vさん)と場所的には隔離しないで生存に必要な保護責任を尽くさないことをいいます。

=よって人を死傷させた=
保護責任者遺棄罪(刑法218条)は結果的加重犯と言われ、死傷の結果発生につき認識は不要です(認識がある場合は殺人罪(刑法199条、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)が適用される可能性があります)。

~保護責任者遺棄罪・同致死傷罪の罰則は?~

保護責任者遺棄罪の罰則は、「3月以上5年以下の懲役」です。
また、保護責任者遺棄致死罪の罰則は、「傷害罪の罪と比較して、重い刑による」とされています。
これは、保護責任者遺棄致傷罪(傷害を負わせた場合)の場合は、「3月以上15年以下の懲役(傷害罪の罰則は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」で、下限は保護責任者遺棄罪が重く、上限は傷害罪が重いため)」で、保護責任者遺棄致死罪(死亡させた場合)の場合は、「3年以上の有期懲役(傷害致死罪の罰則は「3年以上の有期懲役」で、保護責任者遺棄罪より傷害致死罪の方が重いため)」とされることを意味しています。

~おわりに~

暑い季節ですから、飲み会の機会も増えるかと思います。
泥酔者に対して「 面倒だなぁ」など思ったとしても、しっかりしかるべき対処をするべきでしょう。

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