痴漢行為と強制わいせつ事件

2021-02-28

痴漢行為と強制わいせつ事件

痴漢行為強制わいせつ事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

Aさんは、大阪市中央区にある駅構内の女子トイレに好みの女性であったVさんが入っていくのを見計らい、Vさんについて行きました。
そしてAさんは、Vさんに抱き付いて個室に連れて行き、服の上からVさんの臀部を撫でまわすなどしました。
Vさんが悲鳴をあげて助けを呼んだことで駅員が駆けつけ、通報を受けた大阪府南警察署の警察官によってAさんは強制わいせつ罪の容疑で逮捕されました。
その後Aさんは、家族の依頼によって接見に訪れた弁護士から強制わいせつ罪の法定刑等を聞き、予想以上に重い刑罰であったことに驚きました。
(※この事例はフィクションです。)

・痴漢行為で強制わいせつ事件

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、日本には「痴漢罪」という犯罪があるわけではありません。
一般によく言われる「痴漢」とは、体を触ったり下半身を押し付けたりといったわいせつな行為を電車や道路、施設などでする行為や人を指すものであり、それ自体が罪名であるわけではないのです。
ですから、痴漢行為をして成立する犯罪は、すでにある法律の中からその痴漢行為が該当する犯罪となります。
すなわち、痴漢と一言に言っても、事件ごとに成立する犯罪は異なるということになるのです。

痴漢行為によって成立する犯罪としてよく取り上げられるのは、各都道府県で定められている迷惑防止条例に違反する迷惑防止条例違反と、今回のAさんの逮捕容疑でもある強制わいせつ罪です。

大阪府迷惑防止条例第6条第1項
何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

第1号 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。

大阪府迷惑防止条例第17条第1項
次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

第2号 第6条の規定に違反した者(第15条の規定に該当する者を除く。)
※注:「第15条」では、第6条第1項2号・第3号、第2項・第3項に関わる部分を規定。

刑法第176条(強制わいせつ罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。
13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

ご覧の通り、この2つの犯罪の刑罰は大きく異なるため、どちらの犯罪が成立するかによって予想される刑事手続や処分も異なってきます。

条文から読み取れる迷惑防止条例と強制わいせつ罪の大きな違いとしては、強制わいせつ罪は「暴行又は脅迫を用いて」と手段が限定されているのに対し、迷惑行為防止条例は「公共の場所又は公共の乗物」と犯行の場所が限定されているという点が挙げられます。
よく「服の上から触る痴漢行為は迷惑防止条例違反、服の下から直接身体に触る痴漢行為強制わいせつ罪」と言われますが、このように2つの犯罪は手段や場所によって違いが出てくるため、直接体に触れたか否かは絶対的な基準ではありません。

今回のAさんの事例を考えてみましょう。
Aさんの起こした痴漢事件の犯行場所は駅構内の公衆トイレであり、Vさんの服の上から触っているため、迷惑行為防止条例違反が適用されるように見えます。
しかし、AさんはVさんを個室のトイレに連れて行った上で抱き着いています。
この行為がVさんの犯行を押さえつけるほど強い「暴行」であると判断されれば、「暴行」を用いて痴漢行為=「わいせつな行為」をしていることになるため、強制わいせつ罪が成立することも考えられます。
今回の事例ではそのように判断されたため、Aさんは強制わいせつ罪の容疑で逮捕されたのでしょう。
なお、今回の事例のAさんは女子トイレにも無断で入っていることから、建造物侵入罪(刑法第130条)にも問われる可能性があります。

痴漢というと具体的な犯罪名がわからないためか、簡単に考えてしまう人もいるようですが、強制わいせつ罪などの重い犯罪が成立することも考えられます。
もしも当事者となってしまった場合は、刑事事件に強い弁護士に相談・依頼し、サポートを受けることをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、強制わいせつ事件などの性犯罪・暴力事件にも対応していますので、まずはお気軽にご相談ください。