神社の社殿の一部に放火

2020-04-21

今回は、複数からなる建造物の一部に放火した場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~事例~

東京都杉並区に住むAは仕事やプライベートでうまくいかず、ストレスを抱えていたことから、放火をしようと考えていました。
そこで、夜間に自宅から3kmほど離れた場所にある神社を目標に定めました。
そこで、社殿の一部の祭具庫に放火し、祭具庫は全焼しました。
その後、付近をパトロールしていた警察官によって、Aは逮捕されました。
祭具庫は当時、人はおらず、住居に使用するものでもありませんでしたが、その神社は複数の建造物からなり、その一部には人の現在、現住する社務所や守衛詰所があり、それらは木造の回廊でつながっていて一周できる構造になっていました。
それら複数の建造物は日夜、神社職員等によって一体として使用されていました。
(フィクションです。)

-放火罪の種類-

主な放火に関する刑法上の条文には以下のものがあります。

108条(現住建造物等放火罪)
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

109条
1項(他人所有非現住建造物等放火罪) 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する。
2項(自己所有非現住建造物等放火罪) 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。

110条
1項(他人所有建造物等以外放火罪) 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2項(自己所有建造物等以外放火罪) 前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲又は十万円以下の罰金に処する。

放火して焼損させた対象が、現に住居に使用されているか否か、現に人がいるか否か、建造物等か否か、他人所有か自己所有かによって条文が分かれています。

-建造物としての一体性-

本件では、放火し焼損させたのは社殿内の祭具庫で、建造物にあたるので建造物等以外を対象とした110条が適用から外れますし、Aの自己所有でもないので、自己所有を前提とした109条2項も適用されません。
それでは、残るのは108条と109条1項になり、人の現在性・現住性の有無がどちらの条文に当たるかの成否を分けます。
本件でAが放火し焼損させた祭具庫はどうでしょうか。
祭具庫自体には現住性・現在性はないのですが、ここでは、祭具庫が人の現在・現住する社務所や守衛詰所と建造物として一体といえるかどうかがポイントとなります。
建造物として、一体といえるためには「物理的一体性」と「機能的一体性」が重要といえます。

「物理的一体性」とは物理的にみて、構造上一体といえる状態のことです。
ただし、現住性・現在性部分に対する延焼可能性があってはじめて現住・現在建造物としての物理的一体性が認められます。
なぜなら、現住建造物等放火罪が直接人の生命・身体に危険を及ぼすために重く処罰されていることから、現住・現在部分に対する延焼可能性が全くない場合だと人の生命・身体への危険が認められないからです。

そして、「機能的一体性」とは、使用上の一体性を指します。
現住部分と非現住部分が一体として使用されている場合には、非現住部分にも人が存在する可能性があるからです。

-本件で建造物としての一体性があるといえるか-

本件では、祭具庫と社務所や守衛詰所とが木造の回廊で繋がっているところから、構造上一体であり、延焼可能性もあることから、物理的一体性があるといえます。
また、焼損した祭具庫と社務所や守衛詰所は一体として使用されていたことから、機能的一体性があるといえます。

以上により、本件では祭具庫と社務庁や守衛詰所とが「物理的一体性」と「機能的一体性」が認められることによって、建造物の一体性があるといえます。
よって、Aには108条の現住建造物等放火罪が成立する可能性が高いでしょう。

-放火事件の加害者になったら-

以上のように、放火罪は複数の条文にまたがっていますし、適用される条文(刑法108条)によっては死刑もあり得るので、事件を解決するにあたっては弁護士の知識・経験が欠かせません。
もし、あなたやあなたの大事な人が加害者として放火の罪に問われそうになったら、是非、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお任せください。

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