【事例解説】タクシー運転手に暴行後逃走したとして逮捕(前編)
タクシーの運転手を殴ったあと、料金を支払わずに逃走したとして、強盗致傷の容疑で捜査された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
参考事件
自営業のAさんは、タクシーに乗車し、目的地に着いた際に運転手から、「次からはこんな短い距離なら乗せないからな」と言われたことにイラついて口論になった結果、激昂し運転手を殴りつけ、運転手がひるんでいる間に、乗車料金1千円を支払わず逃走しました。
運転手からの110番通報によって事件が発覚し、その後、Aさんは、強盗致傷の容疑で、逮捕されました。
Aさんに殴られた運転手は顔を打撲するなどの傷害を負っているようです。
(フィクションです。)
強盗致傷罪について
人に対して暴行すれば「暴行罪」が、そして暴行によって怪我をさせれば「傷害罪」となりますが、それにとどまらず、暴行行為によって、財産上不法の利益を得ると「強盗利得罪(刑法第236条2項)」となります。
(強盗)
第236条(出典/e-GOV法令検索)
「 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」
さらに、その際に相手に怪我を負わせると「強盗致傷罪(刑法第240条)」となります。
今回の事件の場合、暴行(傷害)によってタクシー料金の支払を免れたということで、刑法でいうところの「財産上不法の利益を得た」ということができ、さらに傷害を負わせているため、強盗致傷罪が成立する可能性が高いでしょう。
(強盗致死傷)
第240条(出典/e-GOV法令検索)
「強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。」
強盗致傷罪の罰則
強盗致傷罪の法定刑は「無期又は6年以上の懲役」です。
この法定刑は非常に厳しい内容で、起訴されて有罪が確定した場合、何らかの減軽事由がなければ執行猶予が付くこともなく刑務所に服役しなければなりません。
※執行猶予が付くのは3年以内の懲役刑が言い渡された場合に限る。
単なる暴行罪だと法定刑は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」ですし、傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
また単なる強盗罪だと「5年以上の有期懲役」です。
他の犯罪の法定刑と比べても「強盗致傷罪」の法定刑は、非常に厳しいことが分かります。