職務質問中に警察官を殴打し逮捕

2020-05-01

今回は、職務質問中に警察官を殴打してしまった場合の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~ケース~

東京都北区に住むAさんは、薬物の常習者です。
薬物常習者に特異な挙動をパトロール中の警視庁赤羽警察署の警察官に見咎められ、停止を求められました。
Aさんはその時覚せい剤を所持していました。
覚せい剤所持が発覚するとまずいと思い、無言で立ち去ったところ、警察官のうち1人がAさんの前に立ち、もう1人がAさんの肩を掴んで止めようとしました。
Aさんは「任意の職務質問を強制する警察官を懲戒する」などと叫び、警察官の額を右こぶしで殴打しました。
Aさんは公務執行妨害罪の疑いで現行犯逮捕されてしまいました。(フィクションです)

~公務執行妨害罪について解説~

公務執行妨害罪とは、「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加える行為」(刑法第95条1項)、及び、「公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加える行為」(刑法第95条2項)をいいます。
実際に公務員の職務執行が妨害されたことは必要ではありません。

ただし、条文上明らかではありませんが、判例通説によると、本罪の職務は適法でなければなりません。
したがって、Aさんの暴行に先立ってなされた職務質問が、刑法第95条における適法性を有していないのであれば、公務執行妨害罪は成立しません(ただし、暴行罪や傷害罪は成立しうるでしょう)。
ケースにおける職務質問は適法だったのでしょうか。

~職務質問の適法性~

警察官職務執行法第2条1項によれば、「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができ」ます。

ただし、同条3項によると、「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない」とされているので、職務質問任意処分ということができます。
それでは、警察官がAさんを止めるために行く手を阻んだり、肩を掴んだりする行為は任意処分として許容されるのでしょうか。

判例(最高裁判所第三小法廷昭和51年3月16日決定)は、「任意捜査における有形力の行使は、強制手段、すなわち個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段にわたらない限り許容されるが、状況のいかんを問わず常に許容されるものではなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において、許容される」としています。

Aさんに①薬物常習者に特異な挙動が認められる点、②職務質問を受けたところ、無言でその場を立ち去ろうとした点は、上記の「必要性」、「緊急性」が肯定される可能性を高める行為ということができるでしょう。

なお、上記判例においては、警察官が、酒酔い運転の罪の被疑者を警察署に任意同行し、呼気検査に応じるよう説得を続けていたところ、被疑者が急に退室しようとしたため、その左斜め前に立ち、両手でその左手首を掴んだ点が問題となりました。
これに対し最高裁は、「任意捜査において許容される限度内の有形力の行使である」として適法と判断しました。

ケースの警察官はAさんの行く手を阻んでいますが、そもそもAさんに触れたわけではなく、適法に停止させる行為として認定される可能性が高いと思われます。
また、もう1人の警察官がAさんの肩を掴んだ点についても、程度の強いものとは言えず、Aさんの行動を考慮すれば、相当なものとして、任意処分の範疇に属する有形力の行使と判断されるものと考えられます。
職務質問の対象者をいきなり殴打したり、いきなり組み伏せたりすれば、もはや任意処分とはいえないと思いますが、ケースにおける程度の有形力の行使は、殆どの場合、適法と判断されるのではないでしょうか。

~すぐに弁護士を呼ぶ~

逮捕されてしまった事件を有利に解決するためには、早期に弁護士を依頼することが重要です。
ご家族が公務執行妨害事件を起こし、逮捕されてしまった方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。