【事例解説】部活を辞めた後輩を脅迫 暴力行為等処罰法違反で逮捕(後編)
前回に引き続き、部活を辞めた大学の後輩に対して、集団を装い脅迫した事件について、暴力行為等処罰法違反となる可能性があるかどうか弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例紹介
関西の大学に通う大学生のAさんは、大学の柔道部の主将として、全国大会で優勝するため同期や後輩を練習に励んでいました。
Aさんが厳しい練習メニューを作成したところ、2年の後輩の1人であるVが部活動に来なくなり周囲の人たちに部活動の不満を言っていると知りました。
Aさんは内心穏やかでなかったものの気にしないようにしようとしていました。
しかし、Vさんに触発されて部活動をやめると言い出す後輩が複数で現れ柔道部が存続の危機になってしまったので、Vさんが諸悪の根源と考え、Vさんに電話で「お前好き勝手言っとるみたいやのう。柔道部全員で殺しに行くから待っとけ」と言ってしまいました。
怖くなったVさんは、両親と連絡し被害届を警察に提出することにしました。
後日、Aさんは警察に逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
前編では脅迫罪の成否についてを、後編では暴力行為等処罰法の成否について解説します。
暴力行為等処罰法違反
暴力行為等処罰法(出典/e-GOV法令検索)は、脅迫罪等の刑法犯が一定の場合に行われた場合に、刑法よりも重く処罰すると規定しています。
例えば、刑法上の脅迫罪の法定刑は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金刑ですが、暴力行為処罰法では一定の場合に脅迫罪に当たる罪が犯された場合、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金となっています。
具体的にどういった場合かというと、①現実に団体や多数人で威力を示して脅迫した場合、②現実には団体や多数人ではないのにそうであるかのように装って脅迫した場合、③凶器を示して脅迫罪を行った場合です(暴力行為等処罰法1条)。
前編で解説したように、Aさんは脅迫罪に当たる可能性があります。
さらに、Aさんは、Vさんに「柔道部全員で」殺しに行くと言ってしまったようです。
実際にAさん以外の柔道部員がVさんを殺そうと思っていなかったとしても、Aさんは、あたかも柔道部員からなる団体がVさんを殺そうとしているかのように装って脅迫したことになりますから、暴力行為等処罰法1条違反になる可能性があります。
弁護士に相談を
本件のように被害者のいる犯罪では、示談を成立させることが非常に重要となります。
早い段階で示談が成立すれば、起訴猶予による不起訴処分となるかもしれません。
仮に起訴されたとしても、量刑が、示談が成立していることを踏まえて軽くなる可能性もあるからです。
もっとも、加害者自ら示談交渉のため被害者と連絡を取ろうとするのはおすすめできません。
本件では、Aさんから殺すと言われて怖い思いをしたVさんは、たとえAさんが反省し謝罪したと思っていたとしても、Aさんとは一切連絡を取りたくないと思うかもしれません。
そこで、示談交渉は交渉のプロである弁護士に一任されることをおすすめします。
加害者本人とやりとりすることを強い嫌う被害者であっても、弁護士相手であれば交渉に応じてくれることは少なくありません。