逮捕時に令状なしで押収
逮捕時に令状なしで押収
今回は、逮捕時の令状なしの押収・差押えについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
~ケース~
千葉県船橋市に住むAさんは、護身用と称して特殊警棒をカバンに隠して携帯していたところ、千葉県船橋警察署の警察官から職務質問を受けました。
Aさんは警察官らの質問に対する回答を拒んだ挙句、「違法な職務質問を行う警察官に対して加害行為を行っても、正当防衛が成立する」などと叫び、特殊警棒で警察官を殴打しました。
殴られた警察官は頭蓋骨を骨折し、入院したことが後にわかりました。
応援にやってきていた警察官5名でAさんを制圧し、公務執行妨害および傷害の疑いで現行犯逮捕しました。
特殊警棒はその際に警察官によって押収されました。
Aさんは「逮捕されたとはいえ、令状なしで警棒を押収したのは、警察権力の横暴である」と考えています。
警棒の押収手続の適法性について、Aさんは弁護士に尋ねてみようと考えています。(フィクションです)
~公務執行妨害および傷害罪について解説~
【公務執行妨害罪】
この犯罪は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加える犯罪です(刑法第95条1項)。
公務執行妨害罪の客体は「公務員」です。
よくニュースで見聞きするのは、警察官を殴打するなどして検挙される場合ですが、当然ながら、職務中の市役所職員などに暴行・脅迫をした場合であっても、公務執行妨害罪が成立します。
「暴行」は、公務員に向けられた有形力の行使であれば足りるとされていますが、公務員の身体に対して直接なされる必要はなく、間接的に当該公務員に物理的・心理的に影響を与えるようなものでも構いません。
判例で有罪になったものとしては、
・税務署員が差し押さえた密造酒入りの瓶を割って内容物を流出させる行為(最高裁昭和33年10月14日判決)
・逮捕現場で警察官が押収した覚せい剤注射液入りアンプルを足で踏みつけて破壊する行為(最高裁昭和34年8月27日決定)
などがあります。
公務執行妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金となっています。
【傷害罪】
文字通り、人の身体を傷害する犯罪です(刑法第204条)。
警察官に生じさせた頭蓋骨骨折は、明らかに「傷害」に該当します。
傷害罪の法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
上記に加え、軽犯罪法違反にも問われる可能性も十分あります。
~特殊警棒の押収手続は適法か?~
本来、捜査機関が証拠品等を押収するためには、裁判所の許可が必要です(令状が必要という言い方もします)。
しかし、刑事訴訟法220条に例外規定があります。
刑事訴訟法
第220条1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
2項 省略
3項 第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない。
4項 省略
Aさんは、司法警察職員たる警察官により、現行犯逮捕されています。
このような場合において必要があるときは、刑事訴訟法第220条1項2号により、「逮捕の現場で差押」をすることができ、同条3項により令状は不要です。
したがって、Aさんが特殊警棒で警察官を殴打し、傷害を負わせるなどして現行犯逮捕された場合においては、令状なしで凶器の特殊警棒を押収しても、適法ということになります。
~まずは弁護士を呼ぶ~
Aさんは警察官に比較的重い傷害を負わせており、重い処分がなされることが十分見込まれます。
一刻も早く弁護士を呼び、善後策を立てていく必要があるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
ご家族が公務執行妨害・傷害事件などを起こし逮捕されてしまった方は、ぜひご相談ください。