【事例解説】正当防衛における「侵害の急迫性」について(運転手間でトラブルになり、相手を負傷させた架空の事例に基づく解説)

2023-12-15

 運転手間でトラブルになり、相手を突き飛ばし負傷させた架空の傷害事件を参考に、正当防衛における「侵害の急迫性」の要件などについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例紹介:自営業男性Aさんのケース

 福岡市内在住の自営業男性Aは、県道を自動車で走行中、男性Vの運転する自動車の割り込みに腹を立て、クラクションを鳴らしました。
 Aのクラクションに怒ったVが停車し、後続のA車両に駆け寄って来て口論となり、Vが窓からAの手首を掴んできたため、AはVを突き飛ばして転倒させ、車を発進させました。
 Vは転倒の際に全治3週間の手首の捻挫を負い、警察に被害届を提出したことで傷害事件として捜査が開始され、後日、Aは警察から取調べのための呼び出しを受けました。
(事例はフィクションです。)

正当防衛における「侵害の急迫性」の要件

 AがVを突き飛ばし転倒させたことで、全治3週間の怪我を負わせたことから、Aに傷害罪(刑法第204条)が成立すると考えられますが、Aは、手首を掴んできたVの暴行から身を守るために行った正当防衛であると主張することが考えられます。

 正当防衛の要件は、(1)急迫不正の侵害に対して(「侵害の急迫性」)、(2)自己又は他人の権利を防衛するため(「防衛の意思」)、(3)やむを得ずにした行為であること(「防衛行為の必要性・相当性」)、と定められています(刑法第36条第1項)。

 (1)「侵害の急迫性」について、「急迫」とは、相手方からの暴行などの法益侵害の危険が、現存又は切迫していること、とされます。
 侵害を予期できた場合でも急迫性は否定されないとされますが、その機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思(「積極的加害意思」といいます。)で侵害行為を待っていたときなどは、侵害の急迫性の要件を充たさないとされます。

 「積極的加害意思」までなかったとしても、侵害の予期の程度や侵害回避の容易性などの観点から、警察などの公的機関の保護を求めずに反撃行為を行うことは相当でないとして、要件を充たさないとされる可能性があります。

 本件Aは、VがA車両に駆け寄ってきた時点で、Vから何らかの危害を加えられることも予期し得たと考えられるところ、すぐに自動車の窓や鍵を閉め、必要に応じて警察に通報するなどして、Vの暴行を容易に回避し得たともいえることから、この要件を充たさないと判断される可能性もあります。

傷害事件の弁護活動

 傷害罪で起訴され、正当防衛の主張が認められず有罪となれば、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられることとなります。

 本件は、先に述べたように、正当防衛の主張が容易に認められない可能性もあるため、被害者の怪我の程度も比較的軽微であることから、被害者との示談を成立させることにより不起訴処分で事件の終了を目指すことも、現実的な選択肢の一つと考えられます。

 弁護士であれば通常、示談交渉のために捜査機関から被害者の連絡先を教えてもらえると考えられ、刑事事件に強い弁護士であれば、しっかりした内容の示談が成立する可能性が見込まれ、不起訴処分で事件が終了する可能性を高めることが期待できます。

 仮に起訴されたとしても、刑事事件に強い弁護士であれば、現場の状況や目撃証言など被疑者に有利な証拠を収集し、正当防衛の成立が認められなかったとしても、刑の減軽や執行猶予の獲得に繋げる弁護活動を行うことが期待できます。

まずは弁護士にご相談を

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件に強く、傷害事件において、示談成立による不起訴処分を獲得している実績が多数あります。
 傷害罪で自身やご家族が警察の取調べを受けるなどしてご不安をお抱えの方、正当防衛が成立するのではないかと疑問を持たれる方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。