【事例解説】介護・リハビリでの場面における暴行事件

2023-09-22

 介護・リハビリでの介助行為が暴行罪に問われたケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例紹介

 Vさんは、事故で負った障害が原因により、ひとりでは立った姿勢を維持することができない状態です。
 そのため、Aさんの介助で毎日リハビリをしています。
 ある日のリハビリ中、Aさんは、背後からVさんの両脇を抱えて、Vさんを立った状態にさせたところから、突然手を離して床の上に崩れ落ちさせました。
 さらに、床に崩れ落ちたVさんの身体を持ち上げて、Vさんをクッションの上に放り投げました。
 この様子を見ていた周囲の人が、警察に通報したことで、Aさんは暴行罪の疑いで警察で取調べを受けることになりました。
(この事例は、さいたま地方裁判所平成24年7月17日判決を元にしたフィクションです)

介護・リハビリにおける暴行事件

 刑法208条が規定する暴行罪が成立するためには、相手に対して「暴行」を加える必要があります。
 この「暴行」の意味については、人の身体に対する不法な有形力の行使(物理的な接触)と考えられています。

 介護やリハビリの中でなされる介助行為の多くは、相手の身体との物理的な接触が避けられません。
 そのため、このような介助行為は暴行罪における暴行の意味のうち、「人の身体に対する」という部分と「有形力の行使」という部分については該当することになってしまいますが、介護やリハビリでなされる介助行為それ自体は正当な行為として認められているものですので、相手の身体と物理的な接触が必用な介助行為については、通常は「不法な」ものであるという評価はなされず、介助行為が暴行罪にいう暴行には当たらないと考えられます。
 もっとも、相手の身体に物理的に接触する介助行為が介護やリハビリとして認められる範囲を越えるような場合には「不法な」ものであると判断され、介助行為が人の身体に対する不法な有形力の行使として暴行罪に該当する場合があります。

 冒頭で記載した事例は、さいたま地方裁判所平成24年7月17日判決を元にしたフィクションですが、この判決では、リハビリの場面でなされた行為が暴行罪の暴行に該当するかが争点になりました。
 具体的には、重度の身体障害を持つ9歳の子供のリハビリの際に、被告人である父親が、①後ろから両手で支えて子供を持ち立たせた状態から、その両手を放して子供をお尻から畳の上に崩れ落ちさせた行為と、②子供の右わきとお尻を抱えてクッションの上に放り投げさせた行為がそれぞれ暴行に問われるかが争われました。
 被告人である父親は、①の行為についてはリハビリを行っただけであり、②の行為についてはゴロンと横にさせただけであると主張しましたが、これに対して、裁判所は、①の行為に子供の生命を脅かす客観的な危険性があることを指摘して、①の行為を「リハビリとして許容される範囲を超えており、不法な有形力の行使である暴行に当たる」と述べ、②の行為は子供の身体を放り投げる行為と評価して、「不法な有形力の行使である暴行に当たることは明らか」であると述べました。

 この裁判例からすると、裁判例の被告人と同様の行為をしているAさんには暴行罪が成立する可能性があると言えるでしょう。
 仮に暴行罪で有罪となってしまうと、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料が科される可能性があります。

介護・リハビリ中の介助行為が暴行罪に当たると疑われてしまったら

 介護・リハビリ中の介助行為が暴行罪に当たると警察に疑われてしまったら、いち早く弁護士に相談して今後についてアドバイスを受けることをお勧めします。
 介護やリハビリにおいて介助される人は、体力が低下したお年寄りや重度の障害を持った方が多いことが想定されますが、そうした体が弱い被害者の方に軽度な暴行を加えた場合、被害者の方の体の弱さがが相まって単なる暴行罪に留まらず、より刑が重い傷害罪や傷害致死罪が成立してしまう可能性もあります。
 実際に、先ほどの裁判例でも、被害者となった子供は、暴行によって急性硬膜下血腫の傷害が生じ、これによって亡くなってしまったので、被告人の父親は傷害致死罪として懲役2年の実刑判決となっています。

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は暴行事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に取り扱う法律事務所です。
 介護・リハビリ中の行為が暴行罪に当たると疑われてお困りの方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所まで一度ご相談ください。