【事例解説】15歳の少年が傷害の容疑で逮捕(後編)
15歳の少年が傷害で逮捕された事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
ある日、大阪のA自宅に警察署から電話がかかってきました。
A父が電話に出たところ、息子(15歳、高校生)のAさんを傷害罪で逮捕したという連絡でした。
驚いたA父は、すぐに弁護士に相談して初回接見に行ってもらうことにしました。
(フィクションです)
傷害罪の少年事件について
前編で解説したとおり、少年事件において、勾留が決定された事件は原則として全件が家庭裁判所に送致されます。
家庭裁判所に送致されると、まずは少年を少年鑑別所に収容させるかどうかの判断(=観護措置の審判)が行われます。
鑑別所に入ると、通常のケースでは4週間ほど出所することができないため、学校に登校できなくなるなどの不利益が生まれてしまいます。弁護士は、少年の付添人として、まずはこの観護措置の決定を避けるべく尽力します。
その後、最終的な処分を決める審判の結果、仮に「保護処分」となった場合には、多くの場合、保護観察処分か、少年院に送致されるか、のどちらかになります。
少年院に入ってしまうと、自由は制限され、一年間ほど外に出ることもできません。
ですから、弁護活動としては基本的に、不処分を求めつつ、保護処分となった場合には保護観察処分を求めていくことになるでしょう。
一般的に、重い犯罪を犯した場合や、少年が更生の難しそうな特性を持つ場合、その他家庭環境・交友関係などが芳しくないと判断された場合には、保護観察ではなく少年院に送致される可能性が高まるといえるでしょう(少年事件について弊所HP)。
今回の事案では、警察所から、「傷害罪で逮捕した」、とだけ聞かされています。
ひとくちに傷害罪といっても、事件の具体的な内容は様々であり、比較的被害の軽いものや、正当防衛を主張すべきものなどのケースもあります。
少年事件の場合は、被疑者に有利な事情があるにもかかわらず、少年はその本心に沿わない供述を捜査機関に強いられてしまうこともよくあります。
ですから、弁護人としては、なるべく早く少年と接見し、事件の詳しい事情などを親身に聞きながら、取り調べについての助言などをしたいのです。
仮に、今回の事件が、比較的に傷害の軽微な傷害事件だと判断されたとしましょう。その場合、保護観察処分が下される可能性は高いかもしれません。
ただし、注意が必要なのは、少年事件の場合は、成人の事件とは違い、刑罰を科すのが目的ではなく、あくまでも教育的な観点から処分が下されるという点です。
つまり、処分を判断するうえでは、犯罪の軽重だけが重要なのではなく、少年の特性や、生活環境、更生の容易性・可能性など様々な事情も重要であり、それらを総合的に考慮したうえで少年をどのような形で保護すべきかなのかが決定されることになります。
少年の周囲の環境や、本人の反省の度合いなどによっては、たとえば、傷害罪よりも罪の軽い暴行罪であっても、少年院に送致された判例もあります(東京高裁令和元年7月29日決定)。
軽い傷害事件だから少年院には送致されないだろう、と油断してしまわないほうがよいかもしれません。