【事例解説】恐喝の疑いで会社員の男を逮捕①
「事故を会社に黙って欲しければ口止め料を払え」と恐喝した疑いで会社員の男が逮捕された事件について、2回に分けて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
・事例
京都府南警察署は、南区内のバス会社に勤務する男性Aを恐喝の疑いで逮捕しました。
Aは同僚のVが自家用車で交通事故を起こした現場に偶然居合わせ、その事故の事実を利用して金銭を脅し取ろうとした疑いが持たれています。
ある日、Vが私用で車を運転していた際に交差点で他の車両と衝突事故を起こしました。
事故の被害は軽微でしたが、会社に報告せずに隠そうと考えたVは、現場に居合わせたAに対し口止めを依頼しました。
Aはこれを利用し、「事故のことを会社にばらされたくなければ、50万円をよこせ」と脅迫しました。
マイホームを購入したばかりのVは、会社にばれてクビなる恐怖のあまり、Aに対してその場で10万円を支払い、残りの金額を後日支払うことを約束させられました。
しかし、Vはその後、恐喝されたことを家族に相談し、その家族の勧めで警察に通報しました。
南警察署に逮捕されたAは、取り調べに対し「株で失敗して金がなかった」と容疑を認めています。
(フィクションです。)
・恐喝罪とは
刑法第249条(出典/e-GOV法令検索)では、人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処すると規定されています。
本件Aは、口止め料として50万円を要求し、10万円を差し出させたようですから、Aの発言が恐喝に当たる場合、Aには恐喝罪が成立する可能性があります。
恐喝とは、①財物交付に向けられた、人を畏怖させるに足りる脅迫または暴行であり、②その反抗を抑圧するに至らない程度の行為を言います。
まず①について検討すると、本件では、AはVに対して「会社に事故をばらす」と脅して金銭を要求しました。
この発言は、バス会社で働くVの仕事に重大な影響を与える可能性があり、Vを畏怖させるに足りる脅迫に該当しそうです。
実際に、Vは購入したがばかりのマイホームの支払いが残っている状態で職を失いかねないと考えてAの要求に恐怖したようです(①)。
次に、②についてですが、反抗を抑圧する程度の脅迫というのは、例えば、拳銃の銃口を突きつけながら「金を出さないと殺す」などと脅す場合です。
本件では、Aの脅迫は口頭によるものであり、物理的な暴力や凶器の使用はありませんでしたので、反抗を抑圧する程度にまでは至っていなかったと言えそうです(②)。
以上より、Aの発言は恐喝に当たり、Aには恐喝罪が成立する可能性があります。