タクシー料金の踏み倒しで強盗事件に

2020-05-17

タクシー料金の踏み倒しで強盗事件になったケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

〜事例〜

千葉県流山市に住んでいる会社員のAさんは、飲み会から帰ろうとしたところ終電の時間を過ぎていたことから、Vさんの運転するタクシーを利用することにしました。
Aさんの自宅に到着したあたりで、VさんはAさんに料金を伝えて支払いを求めましたが、酔っ払っていたAさんは「そんなに高い料金ぼったくりだ。俺は帰るぞ」などと告げ、料金を踏み倒して帰ろうとしました。
驚いたVさんが「困りますよ」とAさんを追おうとしたところ、AさんはVさんを強く突き飛ば市押し倒すなどしてVさんを振り切って自宅へ帰りました。
Vさんがすぐに千葉県流山警察署に通報したことで、警察官が駆けつけ、最終的にAさんは強盗罪の容疑で逮捕されるに至りました。
まさかタクシー料金の踏み倒しから強盗罪になるとは思わなかったAさんは、驚いて接見に訪れた弁護士に相談しました。
(※この事例はフィクションです。)

・タクシー料金の踏み倒しが強盗罪に?

強盗罪と聞くと、目出し帽を被った犯人が店員や銀行員に凶器を突きつけてお金を奪うというシーンが思い浮かぶかもしれません。
しかし、実は強盗罪は金品を奪う行為のみに成立する犯罪ではないのです。

刑法第236条
第1項 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
第2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

先ほど例にあげたような誰かに凶器を突きつけて脅してお金を奪うという態様の場合には、「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取」していることから、刑法第236条第1項に規定されている強盗罪が成立すると考えられます。

しかし、刑法第236条第2項に規定されている強盗罪の場合、暴行又は脅迫を手段として用いていることは刑法第236条第1項の強盗罪と変わりませんが、「他人の財物を強取」するのではなく「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させ」るという部分が異なってきます。
つまり、刑法第236条第2項の強盗罪は、暴行や脅迫によって物理的に金品を奪うのではなく、何か利益を自分や第三者に受けさせるようにすることによって成立するのです。
こうしたことから刑法第236条第2項の強盗罪は「強盗利得罪」などとも呼ばれますが、その法定刑は刑法第236条第1項にある強盗罪と変わらず「5年以上の有期懲役」であり、強盗利得罪になったから重く処罰される、処分が軽くなるといったことはありません。

では、今回のAさんについて考えてみましょう。
まず、結果としてAさんはタクシー料金を踏み倒しています。
タクシー料金を踏み倒すということは、本来払わなければいけない料金の支払いを不正に免れているという「財産上不法の利益を得」ていることになります。

そして、Aさんはタクシー料金の踏み倒しをするためにVさんを強く突き飛ばし押し倒すなどして振り切っていますから、「暴行」を用いていると言えるでしょう。
ここで、強盗罪にいう「暴行」とは、相手の抵抗を抑圧する程度のものが必要とされていますが、今回Vさんは突き飛ばされ押し倒されていることから、Aさんの「暴行」はVさんの抵抗を抑圧する程度の強さだったと考えられるでしょう。
以上のことから、Aさんのタクシー料金の踏み倒し行為は刑法第236条第2項の強盗罪にあたると考えられるのです。

強盗罪は非常に重い犯罪で、刑罰の下限も5年の懲役刑となっていることから、有罪になると情状酌量による刑罰の減軽等がなければ執行猶予をつけることもできません(執行猶予がつけられるのは、懲役刑の場合、3年以下の懲役が言い渡される場合に限られます。)。
ですから、こうしたタクシー料金の踏み倒しであっても、「料金を踏み倒した程度で大したことはない」と甘く考えず、早期に弁護士に相談・依頼することが得策と言えます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、タクシー料金の踏み倒しによる強盗事件のご相談・ご依頼も受け付けていますので、まずはお気軽にご相談ください。