【事例解説】歩行中にぶつかった相手を恐喝したとして男を逮捕(前編)
横断歩道を歩行中にぶつかってきた相手を恐喝した男が逮捕された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
・事件概要
京都府山科警察署は、自営業を営む男性A(38)を恐喝罪の疑いで逮捕しました。
Aは、横断歩道を歩いている際に、反対側から走ってきた男性V(28)にぶつかられ、その衝撃でAの手に持っていたスマートフォンが落下し、画面がひび割れてしまいました。
Aは「ちょっと待てよ!」とVを呼び止めましたが、Vは信号が黄色に変わったため急いで横断歩道を渡り始めました。
Aは、Vが逃げようとしていると勘違いし、追いかけてVを捕まえて胸ぐらを掴み、「スマホの修理代として5万円を支払え!払わないなら殺すぞ」と脅迫し、Vから現金5万円を受け取りました。
目撃者の通報を受けて現場に駆け付けた山科警察署の警察官により、Aは逮捕されました。
取り調べに対し、Aは「自分のスマホが壊れて腹が立った」と供述し、犯行を認めています。
(フィクションです。)
・恐喝罪とは
刑法第249条(出典/e-GOV法令検索)
人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
本件で、AはVに対して「スマホの修理代として5万円を支払え」と脅して現金5万円を受け取っており、このAの行為は恐喝罪に該当する可能性があります。
まず、恐喝罪にいう恐喝とは、①財物交付に向けられた、人を畏怖させるに足りる脅迫または暴行であり、②その反抗を抑圧するに至らない程度の行為を指します。
本件で、Aは「スマホの修理代を支払わないと殺すぞ」と言ってVを怖がらせておりこれは財物交付に向けられた脅迫に該当します(①)。
次に、Aの行為は、Vの反抗を抑圧するに至らない程度と言えるでしょうか。
仮に、反抗を抑圧する程度の脅迫に該当した場合、恐喝罪ではなく強盗罪の成否が問題となります。
例えば、ナイフなどの凶器を用いて脅迫した場合、要求に応じないと命の危険があるため、金品を差し出すしかありません。
このような場合、反抗を抑圧する程度の脅迫に該当し、恐喝罪ではなく強盗罪が成立する可能性があります。
本件では、Aは「スマホの修理代を支払わないと殺すぞ」と脅しましたが、凶器を用いたわけではありませんので、反抗を抑圧する程度の脅迫とは言えないでしょう。
したがって、Aの発言は恐喝に該当します(②)。
以上より、Aには恐喝罪が成立する可能性があります。