傷害致死罪で逮捕・同時傷害の特例

2019-05-27

傷害致死罪で逮捕・同時傷害の特例

Aは、普段よりそりの合わなかったVを、東京都豊島区にある行きつけの店に呼出し因縁をつけた上で、暴行を加えた。
Vは、同店内から逃げ出したところ、同店の常連であったBと遭遇し、Vを恨んでいたBはその場で暴行を加えた。
これらの暴行の結果、傷害を負ったVは死亡するに至った。
しかし、当該傷害が、AとBどちらの暴行により生じたかは不明である。
なお、Vの死亡結果と、Bの暴行との間には因果関係が認められることが分かっている。
通報を受けて捜査していた警視庁池袋警察署の警察官は、Aを傷害致死罪の疑いで逮捕した。
Aの家族は、暴力事件に強いと評判の弁護士に相談することにした。
(本件は事実を基にしたフィクションです。)

~傷害致死罪と同時傷害の特例(刑法207条)~

本件では、Aに同時傷害の特例が適用され、傷害致死罪(刑法205条)で逮捕されています。
同時傷害の特例とは、耳慣れない方も多いかもしれませんが、刑法207条によって規定されています。
刑法207条は、
・「2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において」
・「それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは」
・「共同して実行した者でなくても、共犯の例による」
という、非常に特殊な規定になります。

刑法60条は、「2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と、共犯の中でも共同正犯について定めていますが、本来本条が適用されるには、2人以上の間に共謀が必要とされています。
刑法207条はこのような共謀がない場合にも、共同正犯が成立することを認める特殊な規定なのです。
さらに、本条は本来は検察官が負うはずの挙証責任を、被告人側に転換する(行為と結果の因果関係の不存在を被告人側に負わせる)点においても、特異な規定であり、学説上も批判が根強く主張されているところでもあります。

このような特例が置かれた趣旨については、傷害の結果が明らかであるにもかかわらず、当該傷害について誰も刑事責任を負う者がいなくなってしまう事態を回避するための特例との考え方が通説とされています。
この点、近年の判例(最高裁平成28年3月24日決定)は、本条の適用に関し、まず「共犯関係にない2人以上」の「各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するもの」であり、「同一の機会に行われたものである」場合には「各行為者において、自己の関与した暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れない」としました。
さらに上記判例は、「共犯関係にない2人以上の暴行による……刑法207条適用の前提となる事実関係が証明された場合には、いずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定されるときであっても、各行為者について同条の適用は妨げられない」としています。

これは、207条は暴行と死亡結果の因果関係を問題とするものではなく、あくまで暴行と「傷害」結果の因果関係が不明な場合に適用される規定であることを示したものと考えられます(上述のとおり207条では、「その傷害を生じさせた者を知ることができないとき」という文言が使われています。)。
したがって、本件Aが「当該傷害を惹起する危険性」を有する暴行を、「同一の機会」に行ったと認められば、207条の適用を介して、傷害致死罪(刑法205条)の罪責を負う可能性が生じることになるのです。

~同時傷害の特例における弁護活動~

弁護士としては、本条の適用について、Aの暴行が本当に「同一の機会」によるものであるのかを検討する必要があるでしょう(この点に関し判断した裁判例として、上記判例の差戻審である名古屋地判平成28年11月25日があります)。
さらに、207条が因果関係の挙証責任を被告人側に転換している規定である以上、Aによる暴行とVの傷害との結果の間に因果関係がないということを積極的に立証するという特殊な立証活動が求められることになります。
仮に、因果関係がないことが証明されれば、Aが負う刑事責任は暴行罪(あるいは傷害罪)の程度にとどまることになり、その法定刑に大きな差が生じることになるため、弁護士の立証活動が重要になることは言うまでもありません。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、傷害致死(同時傷害の特例)事件を含む刑事事件専門の法律事務所です。
傷害致死罪で起訴されてしまうと、裁判員法2条1項2号により裁判員裁判の対象となる可能性もあります。
傷害致死事件といった暴力事件で逮捕された方のご家族は、弊所フリーダイヤル(0120-631-881)までお早めにお問い合わせいただくことをおすすめいたします。