傷害致死罪と嘱託殺人罪との区別

2019-12-18

傷害致死罪と嘱託殺人罪との区別

傷害致死罪嘱託殺人罪との区別について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

埼玉県新座市に住むV女と懇意になったA男は,真実死ぬ意思があることを秘した状態で,Vから気絶するまで水面に顔を沈めてほしい旨を懇請された。
Aは,Vが死んでしまうのではないかと考えたが,Vがこれは「自殺ごっこ」にすぎず,助けを呼べばすぐに警察や救急車等がくるから大丈夫だと説得を繰り返した。
納得したAは,Vが死ぬことはないという認識の下で,Vが気絶するまで水面に顔を沈めた結果,Vは死亡するに至った。
通報を受けて駆け付けた埼玉県新座警察署の警察官は,捜査の結果,Aを傷害致死罪の疑いで逮捕した。
なお,Aに殺意がなかったこと自体には争いはない。
Aの家族は,暴力・粗暴事件に強いと評判の弁護士に相談することにした。
(本件は事実を基にしたフィクションです。)

~傷害致死罪と嘱託殺人罪~

刑法には,殺人罪(刑法199条)が規定されていることは,誰もが知るところです。
さらに刑法の同じ章(26章)には,続けて「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者」を処罰する自殺関与罪や同意殺人罪等を処罰する規定(202条)が置かれていることは,あまり知られていないかもしれません。
この点,本件Aは,Vとともに「自殺ごっこ」などと称し,客観的にはVの殺人の承諾を得て,Aを死亡させています。
この行為に関しては,上記で紹介した202条のうち「人をその嘱託を受け……殺した者」(同条後段)として,同意殺人の中でも「嘱託殺人罪」が成立するようにも思われます。

では,なぜAは嘱託殺人罪ではなく,傷害致死罪(205条)で逮捕されているのでしょうか。
この点に関しては,近年出された裁判例が参考になります。
札幌高裁平成25年7年11日判決は,まず,殺意こそ認めなかったものの殺意がない場合にも上記「人をその嘱託を受け……殺した者」(202条後段)として嘱託殺人罪が成立するとした1審(地裁)判決を破棄しています。
その上で,高裁判決は,被害者による殺人の承諾を知らないまま,暴行・傷害の故意で行った嘱託に基づく行為にはあくまで傷害致死罪(205条)が成立する旨を判示しています。
加害者に殺意がない以上は,被害者による承諾という形で人を殺害することの認識を前提とする嘱託殺人罪が成立するとの判断には無理があり,傷害致死罪(刑法205条)が成立するとしたのです。

~傷害致死罪における弁護士の弁護活動~

上記地裁判決が嘱託殺人罪を成立させたことには,法定刑の問題が関連しています。
嘱託殺人罪(刑法202条)の法定刑が「6月以上7年以下の懲役又は禁錮」であるのに対し,傷害致死罪(刑法205条)の法定刑は「3年以上の有期懲役」とされており,法定刑が不均衡なのではないかとも思われるからです。

しかし,法定刑だけを考慮するのは妥当ではなく,仮に後者の罪を問われたとしても,裁判所が量刑面で不均衡にならないように考慮するのが通常であると考えられています。
したがって,弁護士としても単純に法定刑の問題のみから嘱託殺人罪が成立するとの主張を行うべきではないとも考えられるところでしょう。

もっとも,殺意こそなかったものの,人を故意行為によって,死亡させている以上は起訴される(刑事裁判になる)ことはやむを得ないとも考えられます。
また,傷害致死罪は,裁判員裁判対象事件であることから,この点も弁護士としては考慮を要するといえます。
起訴された場合,弁護士としては,実刑判決を避け,執行猶予を得るための弁護活動を行うことになると考えられます。
執行猶予を得れば,被疑者・被告人にとって最も不利益ともいえる刑務所等への収監という自体を避けることができます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、傷害致死罪を含む暴力事件などを専門に扱う刑事事件専門の法律事務所です。
傷害致死事件で逮捕された方のご家族は、年中無休のフリーダイヤル(0120-631-881)に今すぐにお電話することをおすすめいたします。