児童虐待防止法の改正

2019-08-10

児童虐待防止法の改正

福岡市南区に住むAさんは離婚し、Xちゃん(2歳)と2人暮らしでした。
しかし、Aさんは元交際相手Bと再会したことをきっかけにB宅の元に通い詰めるようになり、徐々にXちゃんに対する育児がおろそかになっていきました。
そして、AさんがXちゃんに1週間、ご飯を食べさせない日が続き、Aさんが久しぶりに自宅へ帰ったところ、Xちゃんはかすかに意識はあったものの、リビングのソファーの上でぐったりと横になっていました。
Aさんは「大変なことをしてしまった。」とは思いましたが、「このまま病院へ連れていけば児童虐待がばれてしまう」と思い、そのまま食事を与えず放置し、Xちゃんを死なせてしまいました。
その後、Aさん家族の異変に気づいた児童相談所の立入り調査により、Xちゃんの死亡が発覚。
Aさんは、福岡県南警察署に保護責任者遺棄致死罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)

~ 児童虐待防止法等改正 ~

令和元年6月19日、親による体罰禁止などを盛り込んだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が、参議院本会議で、「全会一致で可決、成立」しました。

報道によると、改正のポイントは

・親がしつけに際して体罰を加えることを禁止する
・民法の「懲戒権」は施行後2年をめどに見直しを検討する
・児童相談所の一時保護と保護者支援の担当を分ける
・児相には医師と保育士を配置する
・学校や教育委員会、児童福祉施設の職員に守秘義務を課す
→千葉県野田市の児童虐待事案で、教育委員会が女児のアンケートを父親に渡していたことを受けて
・都道府県などは親への再発防止の指導を行うよう努める
・家族が引っ越しした場合に速やかに児童間で情報を共有する

という点とのことです。
また、

・「体罰」の範囲については厚生労働省が今後指針で定める
・「懲戒権」の規定が体罰を容認する口実となっていることを受け、法務大臣が法制審議会(法相の諮問機関)で見直しを諮問する見通し

とのことです。

~ 児童虐待とは ~

ところで、児童虐待については、児童虐待防止法(正式名称:児童虐待の防止等に関する法律)の2条に定義されています。
それによると、児童虐待とは「保護者(略)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。以下同じ)について次に掲げる行為をいう」とされており、「次に掲げる行為」を

1号 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれがある暴行を加えること(身体的虐待)
2号 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること(性的虐待)
3号 児童の心身の発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること(ネグレクト)
4号 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(心理的虐待)

としています。
以上からすると、Aさんの行為は3号の児童虐待(ネグレクト)に当たりそうです。

~ 児童虐待に対する罰則 ~

児童虐待法には児童虐待そのもの罪、それに対する罰則は設けられていません。
あくまで、刑法をはじめとする他の法令に規定されている罪、罰則で処罰される可能性があります。
今回、Aさんが逮捕された保護責任者遺棄致死罪に関しては、刑法218条、刑法219条に規定されています。

刑法219条【遺棄等致死傷】
前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

刑法218条【保護責任者遺棄等】
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

以上の規定を本件に当てはめると、Xちゃんは「幼年者」に当たります。
また、Aさんは、1週間、Xちゃんに食事を与えなかった(ネグレクト)というのですから「その生存に必要な保護をしなかった」ことに当たります(以上、刑法218条)。
そして、さらにAさんは自宅に帰った後もXちゃんに食事を与えずXちゃんを死なせていますから、「前2条の罪を犯しよって人を死傷させた」ことに当たります(以上、刑法219条)。

* 殺人罪に問われる可能性も *
なお、食事を与えなかったことなど(ネグレクト)が殺す行為と同等に評価され、殺人罪が適用されるケースもありますから注意が必要です。
さいたま地裁の裁判例(平成17年10月12日)では、Aさんと同様の事案で、被告人に懲役12年の実刑判決が言い渡されています。

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