被害者の同意と刑事事件①~傷害罪の場合~

2019-09-19

被害者の同意と刑事事件①~傷害罪の場合~

福岡市南区に住むAさんは、お金に困っていたことから自己名義の自動車にかけていた任意保険会社から保険金をだまし取ろうと考えました。
そこで、Aさんは、同じくお金に困っていた知人Bさんに自動車の保険金詐欺をもちかけ、話し合った結果、Aさんが車を運転する加害者役、Bさんが車に轢かれる被害者役を務めることになりました。
そして、Aさんは、Bさんめがけて自動車を運転したところ、アクセル、ハンドル操作を誤り、想定以上のスピードで自動車をBさんに衝突させてしまいました。
そして、その衝撃でBさんを路上に転倒させ、路上に頭を強く打ち付けさせてBさんを意識不明の状態にしてしまいました。
慌てたAさんは、110番、119番通報しました。
そして、Aさんは駆け付けた福岡県南警察署の警察官に、保険金詐欺のため自動車事故を装ったことなどを話すと、傷害罪で逮捕されてしまいました。
その後、Bさんは死亡したことから、Aさんに対する容疑は傷害罪から傷害致死罪に切り替わりました。
(フィクションです。)

~被害者の同意(承諾)と刑事事件~

被害者の同意とは、法益(本件の場合、(Bさんの)身体・生命の安全)の帰属者たる被害者(Bさん)が、自己の法益(身体・生命の安全)を放棄し、その侵害に承諾又は同意を与えることをいいます。
かつては、この被害者の承諾によって、「守るべき法益(保護法益)がなくなった」ことを根拠に、(Aさんの)行為の違法性がなくなり(違法性が阻却され)不可罰となる、と考えられていました。
ところが、近年は、その「守るべき法益がなくなったこと」に加え、(Aさんの)の行為の「社会的相当性」も必要とする、という考え方が主流です。

~被害者の同意によって不可罰とされるための要件~

以上の考え方から、被害者の承諾によって不可罰とされるためには以下の要件が必要とされています。

1 承諾の内容が、被害者自ら処分し得る個人的法益に関するものであること
純然たる国家的法益や社会的法益については、一個人が処分可能な法益ではないため、承諾によって不可罰となることはあり得ません。

2 承諾自体が有効なものであること
承諾は、承諾能力を備えた者の真意に出た真摯なものでなければなりません。幼児や高度の精神病者による承諾や、強制等による承諾は有効な承諾とはいえません。

3 承諾が内心にとどまらず、外部に表明されていること 
ただし、明示的に表明されたもの、黙示的に表明されたものであるとを問いません

4 承諾が行為時に存在すること
事後的に与えられた承諾は無効です。

5 承諾に基づいてなす行為が、その目的、動機、方法、態度、程度等において国家・社会の倫理規範に違反せず、社会的相当性を有すること
上記の行為に社会的相当性を求める考え方からの帰結です。

本件Bさんの同意が有効か否かは、「被害者の承諾(同意)と刑事事件②」で検討することとします。

~被害者の同意があれば全て不可罰?~

仮に、被害者の同意が有効であったとしても、全ての罪において不可罰とされるわけではありません。
被害者の同意と罪の関係については以下のように分類されます。

1 被害者の同意が犯罪の成否に影響しない罪
児童買春、児童ポルノに関する罪、13歳未満の者に対する強制わいせつ罪、強制性交等罪

2 被害者の同意が刑の減軽事由とされる罪
同意殺人罪、同意堕胎罪

3 被害者の同意がないことが明示又は黙示的に犯罪の成立要件とされ、したがって被害者の同意があれば犯罪不成立となる罪
住居侵入罪、窃盗罪

4 被害者の同意によって犯罪の客体の法的性質に変更が生じ、別の罪が成立し得る罪
他人の非現住建造物等放火罪(刑法109条1項)について、その客体に放火しても、所有者が同意していれば、自己所有の非現住建造物等放火罪(刑法109条2項)に 準じて処断される

5 被害者の同意によって違法性が阻却される罪
  
以上から、傷害罪は「5」に当たりそうです。
にもかかわらず、Aさんは逮捕されていますから、それはどうしてかということを次回ご説明したいと思います。

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