不同意性交等事件(旧 強制性交等・強姦事件)
第1 不同意性交等罪の概要
令和5年に、強制性交等罪・準強制性交等罪が改正され、不同意性交等罪が成立しました。
刑法第177条第1項では、
①前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、
②同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、
③性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、
婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
と規定されています。
①の前条第一項各号は、
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
と規定されています。
以前の強制性交等罪・準強制性交等罪よりも犯罪が成立しやすくなりました。
「暴行又は脅迫」でなくても①の行為等により②被害者が同意していないといえれば十分になりました。
性交等の範囲も広がり、「性交、肛門性交、口腔性交」だけでなく、「膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」も性交等として含まれることになりました。
「婚姻関係の有無にかかわらず」と規定され、夫婦間でのDVでも成立しやすくなりました。
第2項では、
①行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、
②性交等をした者も、
前項と同様とする。
と規定されています。
被害者をだまして真の同意がない場合も、犯罪が成立することになります。
第3項では、
十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、
第一項と同様とする。
と規定されています。
被害者が13歳未満の場合は、性交等をすれば同意の有無に関係なく犯罪が成立します。
被害者が13歳以上16歳未満の場合は、被害者と加害者の年齢差が5年以上であれば、性交等をすれば同意の有無に関係なく犯罪が成立します。
第2 弁護活動の例
1 身の潔白を主張する
身に覚えのない不同意性交等の容疑がかけられた場合は,まずは取調官による虚偽の自白がとられないようにする必要があります。
「身に覚えがない」という話を取調官にした場合,あの手この手を使って自白させようと誘導してくることがあります。虚偽の自白であっても,一度調書が作成されてしまうと,それは裁判になった際に重要な証拠として不利に取り扱われることになります。
特に身体拘束されている場合には,連日の取調べにより,肉体的のみならず心理的・精神的に追い込まれてしまい,虚偽の自白をしてしまうということがあります。そこで,弁護士からのアドバイスを受けることにより,虚偽の自白を防ぐことができます。
また,不同意性交等事件においては,被害者の供述が重要な証拠になりますので,無罪・冤罪を主張する場合には,被害者の供述が信用できないことを証拠によって明らかにする必要があります。
そこで,弁護士が独自に調査を行い,目撃者や新たな客観的な証拠を探し出すことで,被害者の供述が信用できないことを主張していきます。
2 被害者の真意に基づく同意があったと主張する
不同意性交等罪の性質上,被害者の真意に基づく同意があれば,犯罪は成立しません。しかし,被害者等の申告により捜査機関から不同意性交等の容疑をかけられてしまうこともあります。この場合には,被害者の真意に基づく同意があったことを基礎づける証拠の収集・提出,捜査機関の主張が十分な証拠に裏付けられていないことを指摘します。冤罪を主張する場合と同様に,弁護士から取調べ対応についての的確なアドバイスを受けることで,真実と異なる供述をとられないようにする必要があります。
3 被害者に対して誠実に謝罪し賠償を行う
不同意性交等罪は,被害者がいる犯罪ですので,被害者に対する謝罪や賠償を行うことが,刑事事件のリスクを下げるうえでも重要な意味を持ちます。
不同意性交等罪は,被害者からの告訴がなくても起訴できる非親告罪ですが、実務上、被害者のプライバシー等への配慮の必要から、告訴取下げがあったとしても必ず起訴するとは限りません。起訴の可能性を下げるためには、被害者と示談し、告訴取下げを求めることが不可欠です。
不同意性交等罪で起訴され裁判になってしまった場合でも,被害者との間で示談や被害弁償を行うことは,量刑(刑の重さ)を決めるうえで重要な意味を持ちます。
謝罪や賠償は当事者同士で行うこともできますが,不同意性交等事件の被害者は,被害感情が強く,当事者間での交渉を断ったり,交渉がこじれたりしてしまうことも往々にしてありますので,弁護士を介して行うことが適切です。
4 早期釈放
不同意性交等罪で逮捕された場合,逮捕・勾留を解いて釈放されるのは非常に難しいですが,検察官に対して勾留請求せずに釈放するよう働きかけを行い,裁判官に対しては勾留せずに釈放するよう法的手続きをとることで早期釈放を目指します。
また,示談による釈放又は起訴後の保釈を請求することで,早期の社会復帰を実現する可能性が高まります。
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